闇はどうしてこんなにも美しいのだろう。
為何黑暗會如此動人?
目が沈んだこの街の空に、闇を飾り立てる星は見えない。くすんだ大気と、街の光がそれを掻き消している。
夕陽西沉,本該裝點天空的繁星卻湮沒在渾濁的空氣和街道的燈海當中,無法分辨。
彼女の聲も名前も存在もこの街は掻き消していく。
她的聲音、名字甚至存在本身也同樣湮沒在這條街道當中。
山々に囲まれ、外界から隔てられたこの街の夜景は闇という海に浮かぶ島のよう。娯楽が溢れていて、街全體遊園地のようになっている。
這座城市四面環山,與世隔絕,一到晚上就化身為漂浮在黑暗之海中的孤島。島上則滿載著娛樂設施,整條街道都好比一個大型遊樂場。
彼女と二人で見た情景を前に、一人佇む。
我現在一人駐足於此,面前是和她兩人一同見證過的情景。
街の光がどれも小さく見える。ここからすべてを見下ろす私はまるで神様にでもなった気分。
從這裡俯瞰,街道的燈光都變成了細小的光點,而站在此處的我彷彿變成了神。
以前ここに來た日からどれくらいの時間が経ったのだろう。
自從上次來到這裡已經過了多久?
彼女がいなくなる前と後とでは、まるごと別の景色に取っ替えたみたいに違って見える。あの目から私だけがこの世界に置き去りにされている。そんな気がした。
在她消失以後即使是相同的景色,在我眼中看來也與過去截然不同。從那天以後,似乎只有我一個人被丟棄在這個世界。
遊戱場の東。彼女と過ごした第4地區。その片隅から見下ろす人工銀河。ここから観るベロニカはまるで世界の心臓みたいだ。
遊樂場的東邊就是我和她一同生活過的第4地區,在地區角落還可以窺見從上天向下凝望的人工銀河。從這裡觀察到的Veronica就像是整個世界的心臟。
たくさんの歯車が回る。街も、人も、どこかで噛み合いながら回り続ける。
成千上萬的齒輪運轉著,街道和人群也是其中一員,互相咬合維繫運轉。
噛み合う歯車とはぐれてしまった私は、ずっと動きを止めたままだった。それでも世界は回る。
而我從互相咬合的齒輪中脫離,一直停滯不前。即使如此世界也仍在運轉。
誰かの言葉を口にしてみる。現実味の無い言葉だったけれど、それは確かに助けを求めてやみくもに手を伸ばした、私に向けられた彼女の聲。
我嘗試著陳述某個人說過的話,卻沒有什麼實感。但這句話確實是她掙扎著伸手向我求助時說出的肺腑之言。
彼女の言葉が、溫もりが私を今も生き長らえさせているのに、私はこの場所に來ても何もしてあげられない。
她的言語和溫暖到現在仍然在延續我的生命,而我站在這裡卻無法為她做任何事情。
あの帰り道で見た彼女の笑顔は噓だったのだろうか。
那次她在回家路上露出的笑容難道都是謊言嗎?
最後の日の帰る道から今日まで、陽の差さない土の中で息を止め続けていくような毎日だった。少しでも前に進もうと、人並みの人生を送っていたはずだった。病気がちだった體も昔ようはだいぶ良くなったのに、この痛みは今も癒えない。
從最後一次踏上回家路的那天到現在,彷彿每天都擯著呼吸,被囚禁於沒有任何日光照射的地下。本以為只要過著與普通人一樣的生活,就可以讓自己有些許的進步,甚至多病的體質都改善了不少,然而這份疼痛卻一直沒有痊癒。
だが、この痛みだけが彼女と私を繋ぐ鎖。決して斷ち切られることのない強固なもの。いや、錆びついて動けなくなったのか。
但是,正是這份疼痛化作鎖鏈將她和我緊緊聯繫在了一起,堅固無比,永不斷裂。不,也可能是因生鏽過多而難以挪動。
數年前の同じ場所。梅雨の季節。
與數年前一樣的地方,同樣在梅雨季節。
『雨が止む頃には暗くなっちゃうね。そろそろ帰ろうか』
「要等到雨停早就天黑了,我們還是先回去吧。」
その日の景色はずっとぼやけたまま。
那天的景色也一直模糊不清。
『天気予報だともうとっくに晴れてるはずだったのにね。次來る時はちゃんと綺麗な虹見せてあげる』
「如果按天氣預報的說法早就該放晴了,可惜一直在下雨。下次過來的時候一定要讓你看到漂亮的彩虹。」
『自ら願って生まれた訳じゃない。歩き疲れたなら立ち止まって泣いてもいいんだよ』
「人的出生是無法由自己決定的,所以如果走累了,不如停下來哭一場。」
出番の無かったスケッチブックを鞄に仕舞う。私を元気づける為に連れてきてくれたのをわかってたのに、期待通りの応えを私は返してあげられなかった。
我把終究沒有用到的素描本收進包裡。她明明是為了讓我打起精神才把我帶到這裡,我卻無法很好地回應她的鼓勵。
葉えられない約束をした。
我們定下了無法實現的約定。
「私はこの街が好きだけど、生まれてから死ぬまでずっとこの街にいるだなんて、馬鹿げてると思う」
「我雖然喜歡這座城市,但是如果一生都要留在這裡的話,這個想法也未免太傻了。」
さっき観た映畫の舞台は、こことはかけ離れている洗練された近代都市。それが彼女の心に響いたのか、ふとそんな事を言った。
剛剛放映的電影中,舞台被設置在與此處相距甚遠的生氣蓬勃的現代都市當中,她突然說出這番話也許是因為內心深處與電影產生了共鳴。
一年前にこの街に來た私と違い彼女はここで生まれ育った。だから"外"への憧れがあるのだろう。
與一年前初來這條街道的我不同,她是土生土長的本地人,所以才會對「外面」有所憧憬吧。
外から來た私にとってはとても新鮮だったけど、そのすべてが彼女が生まれた時から見てきたもの。どんなに楽しい映畫も何回、何十回と観ればつまらなくなる。彼女にとってはこの街は見飽きた映畫そのもの。
雖然這裡的一切都令我耳目一新,但對她而言都是與生俱來的環境,無論多有趣的電影,看了幾次乃至幾十次以後也會變得枯燥無聊。對她來說這條街道就是早已看膩的電影。
この風景、人間模様が、彼女という人間を作ってきた。
街道的景色還有風土人情,造就了她。
「死んだら…… どんな感じなんだろうね」
「死去……會有什麼樣的感受呢」
彼女はそう言った。良い親子関係とは決して言えなかったが、実の父親を失った事は彼女にとっても少なからずショックだったはずだ。久しぶりに聞いた彼女の聲は憂いを帯びていた。
她如此說道。父女關係雖不算和睦,但親生父親的去世仍然給她帶來了不小的打擊,即使很久沒有聽到過她的聲音,也能聽出其中飽含的憂愁之情。
「私あんなに父さんのこと嫌ってたのに、父さんが亡くなる前の日に、今にも意識を失いそうなくらい弱々しい聲で私の名前を呼んで…… そんな父さんを見たら涙が止まらなかった。きっと今日が最期の日なんだって、なんとなく感じた。だからせめて最後になる思い出は笑顔見せようって思ったのに」
「我明明那麼討厭爸爸,但是在他去世前一晚,聲音已經虛弱到快要失去意識了,還在叫我的名字……看著這樣的爸爸我的眼淚就止不住的流。他肯定隱約當中察覺到死期將至,所以本來想至少要笑著留下最後的回憶……」
「たぶん、お父さんも嬉しかったはずだよ… うん。誰だって自分のために泣いてくれて嬉しくないわけないよ」
「我想爸爸肯定也很高興……肯定。畢竟沒有誰在別人為自己哭泣的時候會感到高興。」
私が返した言葉に彼女は小さく頷いて、それからはお互い何も言わなかった。
對於我的回答她只是微微點了一下頭,之後我們相顧無言。
彼女は父親を見送った日から、死というものにとらわれているかのようだった。まだ15歳の彼女には、父親の死を背負うにはあまりにも大き過ぎた。
在我們送走父親以後,她彷彿一直被囚禁在死亡的陰影當中。對於年僅15歲的她來說,父親死去的重擔太過沉重了。
『今日午後19時頃、△△県○○市のアパートで、女性が血を流して倒れているのをアパート大家の男性が発見し、病院に運ばれましたが、まもなく死亡が確認されました。女性はこの家に住む主婦の××××さんで、高校1年生の長女と二人暮らし。長女の行方が分からなくなっていることから、何らかの事情を知っているとみて行方を捜しています——』
「今天晚上19點,在△△縣○○市,男房東在公寓房間中發現一名女性流血倒在地上。雖然被害人第一時間被送往醫院,但是不久之後確認死亡。女性的身份是居住在這個房間裡的主婦××××,與現讀高中一年級的長女一起生活。發生此事後長女下落不明,警方推測她是相關知情人,正在追查行蹤當中——」
遮斷するようにテレビの電源を切った。
彷彿是要打斷新聞的播報一般,我切斷了電視的電源。
世間では、この長女が母親を殺害して失蹤したのだと考えるに違いない。血が繋がっていないとはいえ、高校生が母親を殺したなんて話題の欲しいマスコミにとっては、恰好の餌食だろう。
民間肯定會認為長女是因為殺害了母親所以隱匿了行蹤。雖然血濃於水,但是對於喜歡製造話題的媒體來說,高中生殺害親生母親的噱頭卻是恰到好處。
私も事件を知ったのは、友達という事で警察から事情聴取された時で、彼女が今どうしているかも知る由もなかった。
而我是在以她朋友的身份接受警察取證時,才知道了這件事的發生,並且我對她的去向一無所知。
棺に眠る彼女の顔を見ても、どうしてか涙は出なかった。
看著躺在棺材中的她的面龐,我的眼淚卻流不下來。
冷たく硬直した陶器のような白い肌。照明を受けて艶やかな光沢を帯びた髪。まるで精巧に作られた人形のようだった。私にはそれが彼女であると思えなかった。認めたくながっただけなのかもしれない。でも確かにその遺影は、忘れもしない私が撮影した彼女の寫真だった。
白瓷般細膩的肌膚已經徹底冰冷僵直,柔順的髮絲在照明燈下倒映出光澤,整個人看上去就像被精心製作出的人偶。我無法認同躺在這裡的人就是她,或者只是我不想承認而已。但是我為她拍攝的照片,確實作為遺照放在了那裡。